5月11日に公開となったナタリー・ポートマン主演、ダーレン・アロノフスキー監督のサイコスリラー『ブラック・スワン』を観てきました。
マチルダの衝撃から白鳥&黒鳥ニナの衝撃へ
28歳でバレエを身につけようというのは、ものすごく大きな挑戦です。以前にダンスのレッスンをした経験があるとはいえ、選ばれた人たちのレベルではどれほどの努力が払われているかは想像もつきませんでした。ちょっとした仕種のすべてを、明確に、そして優雅さと気品をこめて見せなければなりません。チャレンジになることはわかっていましたが、これほど肉体的に厳しいものになるとは予想していませんでした。
via: ナタリー・ポートマン
来月の9日に30歳の誕生日を迎えるナタリー・ポートマン。彼女はこの『ブラック・スワン』で第83回アカデミー賞主演女優賞の座に見事に輝いた。
ダンスのトレーニングに撮影前の10ヶ月ほどを費やしてから臨んだという“バレエ”という点も去ることながら、複雑極まりない感情が揺れ動き、交差し、己と必死に闘うヒロイン・ニナを演じるに当たり、精神面でも相当過酷な役作りを続けていったであろう心打たれる迫真の演技。一目瞭然でした。
『レオン』のマチルダ役で衝撃を受けてから約16年、純真で愛らしい繊細な白鳥と邪悪かつ官能的な黒鳥を女優魂たっぷりでニナを演じた彼女の姿をスクリーンで観ずにはいられない。
映し出されているのは紛れもなくニナ本人
レッスン場、楽屋、自宅の部屋、トイレ、バスタブ、電車の窓などなど、主人公であるニナが「鏡」もしくは「鏡の役割に近いもの」に囲まれてるようなシーンが数多く登場する。(撮影も大変だっただろうな...と)
鏡はスリラーやホラーにとって、もはや欠かせない定番中の定番アイテムなのは改めて言うことでもないけど、ニナの場合はそれらに不気味なモノが映り込んでるといった類ではなく、自分自身の心境の変化や自分の知らないもう一人の自分が幻覚的に見える、というのが挙げられる。
物語序盤にレッスン場で自分のダンスを見るために見ている鏡にはなにも変化がないのに、そのレッスンへ向かうために乗った電車の窓には悪魔のようなものが映し出されていた一連の流れはとても印象的でした。
終盤ではその鏡を自ら壊して、破片で自らを刺してしまい、晴れて完璧なブラック・スワンへと変身することになる。ここからラストにかけての映像(ダンス)と音楽と効果音(拍手)には圧倒されっぱなしでした。
『レスラー』と『ブラック・スワン』
レスリングを最低のアート形式と呼ぶ人もしますし、バレエを最高のアート形式と言う人もいますが、このふたつには基本的に同じものがあります。レスラーとしてのミッキー・ロークは、バレリーナのナタリー・ポートマンと非常によく似た経験をしました。
via: ダーレン・アロノフスキー監督
数字に取り憑かれた男を描いた『π』でデビューを果たし、『レクイエム・フォー・ドリーム』では麻薬中毒者がどこまでも堕ちていく様を描いたダーレン・アロノフスキー監督。『ブラック・スワン』は、そのひとつ前にあたる『レスラー』と元々ひとつの企画で、肉体が表現するための唯一の手段となっている点で姉妹編にしたと監督自ら語っている。それらを経たあとの、これからのダーレン・アロノフスキー監督のワークスも楽しみです。
ポスターについて
初版のオリジナルポスター(右側)と通常のポスター、受けるインパクトが違いすぎるよなぁ。なんとか初版の方ですべて展開できなかったものか...。
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