2010年 / スペイン=メキシコ
監督:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
脚本:アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ / アルマンド・ボー / ニコラス・ヒアコボーネ
出演:ハビエル・バルデム / マリセル・アルバレス / エドゥアルド・フェルナンデス / ディアリァトゥ・ダフ / チェン・ツァイシェン / アナー・ボウチャイブ / ギレルモ・エストレヤ / ルオ・チン
舞台はバルセロナ。華やかなイメージの裏には、スペインの大都市が抱える社会問題の中で生きる人々の生活があり、厳しい現実がうごめいている。そんな中で末期がんで余命2ヶ月を宣告されながらも2人の子供と共に生きている父親ウスバル(ハビエル・バルデム)を取り巻くヒューマンドラマとなっている。
『ノーカントリー』で狂ったようにサイコ野郎を演じきったハビエル・バルデムが、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督の元でどんな化学変化を起こすのか!?って部分にすごく興味があったんだけど、とにかく彼の一挙手一投足が素晴らしくて、運命という闇の中でもがき苦しみ生きようとする主役を見事に演じた。この映画に出るために俳優になったんじゃないかと思わせるくらいの演技に胸を打たれました。
ウスバルは非常に責任感の強い男だ。生きる糧として犯罪にも手を染めてはいるものの、ビジネスパートナーとして真剣につき合い、思いやりを持って接することができる男だ。しかし、そういう性格が故に...という一言で片づけてしまっては忍びないくらいの恐ろしい大事故が起きてしまう。
物語として大きなポイントでもあり、そこからラストにかけてそれぞれの“運命”を決定付けるかのような出来事となる。観る者も目を背けたくなるような描写が続くのだが、このときウスバルがバルセロナの夕陽と鳥たちと共に描かれるシーンが訪れる。ここで不思議なことに異常なまでの“美しさ”を感じた。今までのウスバルの生き様、気が滅入る事故の描写を対比してくれと言わんばかりの、とてつもなく遠くに位置するかのような“美しさ”を感じた。
鑑賞後にじっくり振り返れば振り返るほど、ウスバルとサグラダ・ファミリアの遠景とバルセロナの夕陽の印象が増してくる。このへんにアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの映像作家としての計り知れない魅力があるのだろう。